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2017年4月から福岡大学人文学部歴史学科で西洋史を担当してます。


by schembart

研究大会「地域における環境史」

シュヴァーベン地域史メミンゲン討論会(Memminger Forum für schwäbische Regionalgeschichte e.V.)の二年に一度の研究大会が開かれました。メミンゲンの市庁舎にて3日間にわたって開催されるこの研究大会には、専門家ばかりでなくメミンゲンを中心に一般の市民たちもたくさん参加しておりまして(多い時には50人ほども)、活発に議論が展開されています。

今回のテーマは、「地域における環境史(Umweltgeschichte in der Region)」というもので、南ドイツ、とくにシュヴァーベン地域を中心に、さまざまな専門領域の専門家たちが集まりまして、人々と自然環境とが取り結んださまざまな諸関係の歴史をさまざまな視角から討論することが大会の目的となっております。

13日(金曜)から15日(日曜)までの3日間で、全部で15本の報告が用意されております。報告は4つのセクションに分かれてまして、第1セクションは「歴史的気候学(Historische Klimatologie)」、第2セクションは「農業への影響(Folgen für die Agrarwirtschaft)」、第3セクションは「森林利用の諸問題(Probleme der Waldnutzung)」、そして第4セクションは「行動様式と言説(Verhaltensformen und Diskurse)」と題されており、歴史家に限らず自然科学の専門家(気候学者や地理学者)による学際的な議論が展開されております。

ぼくの研究にとって重要なのは「森林利用」に関する第3セクションの報告ですが、それ以外にもとても勉強になる報告がたくさんありました。もちろん、全部の議論についていけたわけではありませんが…。一日にこれだけのドイツ語の専門的な話を聞くと、それだけでくたくたに疲れてしまいます。細かな話になると、すぐにちんぷんかんぷんになってしまいます。

以下が報告の題目になります。

Rolf Kießling,
Einführung: Umwelt als Kategorie der Regionalgeschichte.
「導入:地域史研究の対象としての環境」

Auftakt: Mittelalterliche Grundlagen.
「幕開け:前提としての中世」

Gisela Drossbach,
Mensch und Umwelt in der Kirchenrechtssammlung ‚Collectio Monacensis’(ca. 1200).
「教会法集成"コレクチオ・モナケンシス"(1200年頃)にみる人間と環境」

Sektion I: Historische Klimatologie.
「セクション1:歴史的気候学」

Hans-Jörg Künast,
„In der Früh sehr kalt, nachmittags schön“. Augsburger Wetteraufzeichnungen aus den Jahren 1579 bis 1588.
「"朝はとても寒く、午後は快い"―アウクスブルクの天気録(1579-1588年)」

Peter Winkler,
Revision der meteorologischen Daten von Hohenpeißenberg (seit 1781).
「ホーヘンパイセンベルクにおける気象学データの修正(1781年以降)」

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Öffentlicher Abendvortrag
Peer Friess,
Vergessene Weisheiten oder: Warum die Heilkunst der Antoniter so lange verborgen blieb.
「忘れられた知恵、あるいは:アントニウスの医術はどうして長いこと知られないままであったのか」
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Heidi Escher-Vetter,
Klimaentwicklung und Gletscherverhalten in Mitteleuropa seit 1500.
「1500年以降の中央ヨーロッパにおける気候の展開と氷河の動き」

Sektion II: Folgen für die Agrarwirtschaft.
「セクション2:農業への影響」

Stefan Sonderegger,
„…der Zins ist abgelon…“. Schwierige Zeiten in der Landwirtschaft der spätmittelalterlichen Ostschweiz und ihre Folgen.
「"…貢租は支払われた…"―中世後期における東スイス農業の困難期とその影響」

Christian Jörg,
„So wir warm sollen han, so komen kelten“. Zu den klimatische Rahmenbedingungen der Hungerjahre um 1438 im oberdeutschen Raum.
「"暖かいはずの時に、寒い"―南ドイツにおける1438年頃の飢饉の諸条件」

Frank Konersmann,
Agrarwirtschaft und Kleine Eiszeit in Oberschwaben.
「オーバーシュヴァーベンにおける農業と小氷期」

Paul Hoser,
Die Besiedlung des Donaumooses.
「ドナウ湿地帯の定住」

Sektion III: Probleme der Waldnutzung.
「セクション3:森林利用の諸問題」

Gerhard Immler,
Probleme der Waldnutzung in Schwaben.
「シュヴァーベンにおける森林利用の諸問題」

Klaus Brandstätter,
Maßnahmen zur Sicherung der Holzversorgung in der frühen Tiroler Montanindustrie.
「初期ティロール鉱山業における木材供給のための諸対策」

Sektion IV: Verhaltensformen und Diskurse.
「セクション4:行動様式と言説」

Christine Werkstetter,
Die ‚Pest’ in Fellheim: zum Seuchendiskurs im 18. Jahrhundert.
「フェルハイムのペスト:18世紀の疫病言説について」

Barbara Rajkay,
Hunde in der Kirche, Schweine auf der Gasse. Tiere in der vormodernen Stadt.
「教会に犬、通りに豚:近代以前の都市における動物」

Gerhard Hetzer,
Mensch und Tier im Schlachthaus. Zustände und Wandlungen im 19. Jahrhundert.
「屠畜場の人間と動物:19世紀における状況と変化」


「環境史」というと、一時期は日本でもアメリカ学界の影響から「グローバルヒストリー」としての環境史が語られることがもっぱらでしたが(もちろんそれはとても重要な課題であり続けていますが)、数年前から「地域の環境史」にも関心が持たれはじめ、ここ1、2年、大きな仕事としてその成果が世に問われるようにもなりました(たとえば、佐野静代『中近世の村落と水辺の環境史』吉川弘文館、2008年、あるいは高木徳郎『日本中世地域環境史の研究』校倉書房、2008年など)。ドイツでも同じような傾向があるように思います。今回のこの研究大会の成果は、きっと2年後には活字となって刊行されるはずですが、(「都市と環境」といったテーマも含め)きっとほかにも同様のコンセプトを持った成果がたくさん出されることでしょう。気がついたら、またこの日記でもご紹介したいと思います。
by schembart | 2009-11-15 04:56 | 講義・講演会・研究会