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2017年4月から福岡大学人文学部歴史学科で西洋史を担当してます。


by schembart

研究グループ「学際的な環境史研究」

ゲッティンゲンの環境史研究グループ(「環境史コロキウム」)のサイトをご紹介します。こちら

2004年から始まった大学院コレーク「学際的環境史:中央ヨーロッパにおける自然環境と社会的な振る舞い("Interdisziplinäre Umweltgeschichte. Naturale Umwelt und gesellschaftliches Handeln in Mitteleuropa")」のサイトです。

大学院コレーク(Graduiertenkolleg)というのはドイツの学術研究を支える重要な組織なのですが、数名の教授陣と博士課程の学生(Doktorand)やポスドクなどの研究者たちが集まり、とりわけドイツ学術振興会(Deutschen Forschungsgesellschaft=DFG)の公的な助成を受け、特定の研究テーマのもとで数年間にわたって共同研究を行う研究グループのことです。たとえば、この「学際的環境史」は、2013年までドイツ学術振興会による助成が決まっているようです。

ゲッティンゲンの環境史研究の歴史は、1980年代初頭まで遡ります。ドイツや日本では、今でこそ「環境史」を掲げる大学の学科や研究グループは珍しくはなくなりましたが、80,90年代では、このゲッティンゲン「環境史コロキウム」がドイツではほぼ唯一の学術グループであったといっても過言ではないように思います。重要な成果をしっかりと世に残しています。

Herrmann, Bernd (Hg.): Mensch und Umwelt im Mittelalter, Stuttgart 1986.
『中世の人間と環境』
Herrmann, Bernd (Hg.): Umwelt in der Geschichte, Göttingen 1989.
『歴史のなかの環境』
Schubert, Ernst / Herrmann, Bernd (Hg.): Von der Angst zur Ausbeutung. Umwelterfahrung zwischen Mittelalter und Neuzeit, Frankfurt a. M. 1994.
『畏怖から搾取へ:中世から近代にかけての環境経験』

これらすべてがゲッティンゲン「環境史コロキウム」の成果です。創設時からかわらず本研究グループの指導的立場にあるのは、ゲッティンゲン大学のベルント・ヘルマン教授(Prof. Dr. Bernd Herrmann)です。他には、以前に紹介した『天の采配により』の編者でもあるマンフレット・ヤクボフスキー=ティーゼン教授(Prof. Dr. Manfred Jakubowski-Tiessen)などもこの大学院コレークには携わっております。

とてもありがたいことに、2004年以降の本研究グループの成果『ゲッティンゲン環境史コロキウム論集』が本サイト(Publikationenのところです)で公開されています。

以前に紹介しました研究大会「地域における環境史」では、「地域史(とくにシュヴァーベン)」がより前面に出ていましたが、それにくらべるとゲッティンゲン環境史研究グループでは、「環境史」それじたいへの関心がより強く感じられます。こういう研究グループの成果に対しては、「統一感の欠如」であるとか「議論のばらつき」が目につくという批判がつきものです(そして、その批判にも十分な根拠があるのですが)。本研究グループの活動も、もちろんそのような難しさを内包しているとは思うのですが、その豊富な研究蓄積から、あるいは「学際化」を掲げるその研究の姿勢からは、学ぶべきことはたくさんあるように思います。なにはともあれ、ドイツにおける環境史研究の動向を知るうえでは、30年近くの伝統をもったゲッティンゲン環境史コロキウムの活動を無視することはできません。日本でももっと紹介されてしかるべき研究成果であると思います。
by schembart | 2009-12-25 01:30 | サイト紹介