中近世ドイツ都市史を研究する渡邉さんの日々 2009年夏からドイツに留学中(2013年9月に帰国しました)


by schembart

文献紹介『一つの都市に二つの宗派』

Paul Warmbrunn, Zwei Konfessionen in einer Stadt. Das Zusammenleben von Katholiken und Protestanten in den paritätischen Reichsstädten Augsburg, Biberach, Ravensburg und Dinkelsbühl von 1548 bis 1648, Wiesbaden 1983.
パウル・ヴァルムブルン『一つの都市に二つの宗派―宗派同権帝国都市アウクスブルク、ビベラッハ、ラーヴェンスブルク、ディンケルスビュールにおけるカトリックとプロテスタントの共生、1548年から1648年まで』

もう三十年近く前の研究ですが、帝国都市における宗派同権(Parität)を考察するうえで常に参照される古典的な著作です。宗教改革後に、市内でカトリックとプロテスタント双方の存在が法的に認められた帝国都市における都市民の法的・経済的・社会的・宗教生活的状況を、南ドイツの四つの都市(アウクスブルク、ビベラッハ、ラーヴェンスブルク、ディンケルスビュール)を事例に論じていきます。宗教的寛容や異宗派間の共存・共生をめぐる古くて新しい問題を考える上でも、今もって示唆深い研究であり続けています。以下が目次。

*****
Vorwort
はじめに


I. Einleitung
導入

1. Reichsstädte als Sonderfall in der Konfessionsregelung des Augsburger Religionsfriedens: Koexistenz der Bekenntnisse innerhalb desselben Territoriums
 アウクスブルク宗教平和の宗派規定における特殊事例としての帝国都市:当領域内における諸宗派共存
2. Typen des Zusammenlebens der Konfessionen: Toleranz, Parität, Bürgerliche Gleichberechtigung unter Außerachtlassung von Religionsverschiedenheit
 宗派共生の諸タイプ:寛容、宗派同権、信仰の違いを度外視した市民的同権
3. Auswahlkriterien und Methode
 選択基準と方法
 a) Die Auswahl der Beispielstädte
   事例都市の選択
 b) Untersuchungszeitraum
   研究の時間枠
 c) Fragestellung und Methode
   問題提起と方法

II. Die Beispielstädte
事例都市

1. Quellen- und Literaturlage
 史料および文献状況
2. Vorweginformation zur Sozial-, Verfassungs- und Kirchengeschichte
 社会史・制度史・教会史のための前提情報
3. Der Verlauf der Reformationsgeschichte
 宗教改革の経過
4. Zusammenfassung
 まとめ

III. Die Grundlegung der Bikonfessionalität und Parität in den Jahren 1548 bis 1555
1548年から1555年までの二宗派制と宗派同権の基礎固め

1. Augsburger Interim und Bikonfessionalität
 アウクスブルク仮信条協定と二宗派制
2. Die Wiederherstellung der katholischen Religionsausübung in Augsburg durch den Vertrag am 2. August 1548
 1548年8月2日契約によるアウクスブルクにおけるカトリック信仰の回復
3. Die Verfassungsänderungen Karls V.
 カール5世の制度変革
4. Der gescheiterte Versuch der Wiederherstellung der evangelischen Vorherrschaft im Zuge des Fürstenaufstands von 1552
 1552年の諸侯蜂起における福音派優勢回復への失敗した試み
5. Der Augsburger Religionsfriede als religionsrechtliche Grundlage der Parität in den gemischtkonfessionellen Städten
 混合宗派都市における宗教法的な宗派同権の基盤としてのアウクスブルク宗教平和
6. Zusammenfassung
 まとめ

IV. Die Verfassungsentwicklung: Von der wiedereingeführten Gleichberechtigung der Konfessionen zur numerischen Parität
制度的展開:再採用された諸宗派同権から数上の宗派同権制へ

1. Veränderungen im Zahlenverhältnis der Konfessionen zueinander: Die Vertretung im Rat im Vergleich zum Bevölkerungsanteil
 宗派における数的関係性の変化:住民数との割合から見た市参事会における代表数
2. Die Auswirkungen der Ratszusammensetzung auf die Außen- und Konfessionspolitik des Rates
 市参事会の外交・宗派政策に対する参事会構成の影響
3. Der Kampf der Protestanten um eine bessere Repräsentation in den Ratsgremien - aufgezeigt am Beispiel Biberach
 市参事会団体内におけるより良き構成をめざすプロテスタントの闘い
4. Veränderung der Machtverhältnisse durch die jeweils dominierende Partei im Dreißigjährigen Krieg
 30年戦争期におけるその時々の支配的党派による権力関係の移り変わり
 a) Auswirkungen des Restitutionsedikts von 1629 auf die Stadtverfassungen
  1629年原状回復勅令の市制に対する影響
 b) Die radikale Umkehr der Machtverhältnisse in der Zeit der schwedischen Okkupation
  スウェーデン支配期における権力関係のラディカルな転換
 c) Die erneute katholische Restauration ab 1635 und die Organisation des evangelischen Widerstands dagegen in der Bevölkerung
  1635年以降の新たなカトリック修復と住民のなかにおける福音派の抵抗組織
5. Die Einführung und Durchsetzung der numerischen Parität
 数的同権の導入と貫徹
6. Zusammenfassung
 まとめ

V. Die Ordnung des Kirchenwesens im bikonfessionellen Milieu
二宗派制下における教会組織の秩序

1. Die Wechselbeziehungen zwischen evangelischem Kirchenwesen und altgläubigpatrizischer Stadtobrigkeit, illustriert am Beispiel des Ministeriums und der Kirchenpflege
 福音派教会組織と旧教・門閥都市当局との相互関係、聖務者と教会管理人の事例から
2. Das Simultaneum als Prüfstein für die Toleranzbereitschaft der Konfessionen
 諸宗派の寛容の心構えを測る試金石としての(教会)共同使用権
 a) St. Martin in Biberach
  ビベラッハの聖マルティン教会
 b) Die Karmeliterkirchen in Ravensburg
  ラーヴェンスブルクのカルメル会教会
 c) Nebeneinander von katholischem Kloster und evangelischem Predigthaus in Augsburg: Das Beispiel St. Ulrich
  アウクスブルクにおけるカトリック修道院と福音派の説教堂の併存:聖ウルリッヒ教会の事例
3. Das Auftreten der Jesuiten in Augsburg - Rettung des Katholizismus in der Stadt oder Gefährdung des Zusammenlebens beider Konfessionen?
 アウクスブルクにおけるイエズス会の登場―都市におけるカトリック教会の救助か両宗派共生の危機か?
4. Die Neugründung von Kapuzinerklöstern
 カプチン会修道院の新たな創立
5. Zusammenfassung
 まとめ

VI. Die Auswirkungen der Bikonfessionalität auf das Spannungsfeld zwischen staatlichem und kirchlichem Einfluß: Ehegesetzgebung, Bildungs- und Sozialwesen
国家と教会の緊張関係に対する宗派制の影響:結婚立法、教育、社会福祉

1. Die Ehegerichtsbarkeit
 結婚裁判権
2. Das städtische Bildungswesen im Spannungsfeld zwischen den Konfessionen
 都市の教育組織における諸宗派の緊張関係
3. Soziale Fürsorge
 社会的福祉
 a) Das Almosenamt
  喜捨局
 b) Die Stiftungen für Bildungs- und Wohltätigkeitszwecke in Augsburg
  アウクスブルクにおける教育・慈善目的のための寄進
4. Zusammenfassung
 まとめ

VII. Das konfessionsspezifische Verhalten von Familien der reichsstädtischen Führungsschicht
帝国都市の指導層家族における宗派に特有な振る舞い

1. Die konfessionelle Struktur der reichsstädtischen Führungsschicht
 帝国都市の指導層の宗派構造
2. Konfessionsverschiedene Ehen und Konversionen innerhalb der reichsstädtischen Führungsschicht - untersucht an ausgewählten gemischtkonfessionellen Familien
 帝国都市の指導層内部における異宗派結婚と改宗―混合宗派家族
3. Zusammenfassung
 まとめ

VIII. Der Kalenderstreit als Beispiel für Auseinandersetzungen zwischen den konfessionen und Möglichkeiten zu ihrer Beilegung
諸宗派間の軋轢とその解決可能性の事例としての改暦紛争

1. Augsburg
 アウクスブルク
2. Dinkelsbühl
 ディンケルスビュール
3. Biberach
 ビベラッハ
4. Ravensburg
 ラーヴェンスブルク
5. Zusammenfassung
 まとめ

IX. Zusammenfassung: Möglichkeiten und Grenzen der Realisierung von Toleranz in den bikonfessionell-paritätischen Städten
まとめ:二宗派・宗派同権都市における寛容の実現化の可能性と限界

1. Phasen des Zusammenlebens der Konfessionen
 諸宗派共生の諸段階
2. Die Parität in den Beispielstädten im Vergleich mit anderen Formen der Bikonfessionalität in den Städten und Territorien des Reiches
 事例都市における宗派同権、帝国の諸都市と領邦における二宗派制の別形態との比較
3. Bewertung und Ausblick
 評価と展望

******

時間がなくなったので今日はここまで。まだ少し書きたいことがあるので、時間ができたら続きを書きます

帝国都市における宗派同権に関する日本語の研究には、これまでも数回ご紹介してきましたが、次の文献があります。ご関心のある方は、まずこちらから参照してみると良いかと思います。

永田諒一「二信仰派併存体制下アウクスブルクの市民生活」『ドイツ近世の社会と教会―宗教改革と信仰派対立の時代』ミネルヴァ書房、2000年

*****

当該テーマについて思い浮かぶのは、2007年歴史学研究会大会のこと。ぼく自身も企画・運営に参加させてもらった合同部会のテーマが「生成される宗教的《境界》」というもので、そこでは当該テーマをご専門とする各時代・各地域の専門家に集まっていただき、異なる宗教集団および宗派が互いにいかに他者を認識し、どのように自らの集団との間に境界を築いていったのかについて議論をしてもらいました。趣旨説明はこちら

各論考および討論要旨は『歴史学研究』(833号、2007年増刊号)で読むことができます。

松本宣郎「初期キリスト教の周縁部」
中村妙子「初期十字軍とイスラム勢力-12世紀前半のシリアにおける協定とジハードの検討を中心に-」
草生久嗣「ビザンツ帝国における宗教的《境界》の生成-正教会異端論駁書を題材に-」
踊共二「近世ヨーロッパの諸宗派とユダヤ教」
合同部会討論要旨(栂香央里)

石渡巧・櫻井康人・坂本宏・蝶野立彦各氏による報告批判は、『歴史学研究』(835号、2007年12月号)に掲載されています。

個人的な思い出をちょっと。趣旨説明の文責がぼくになっていますが、それは当時の企画運営グループのなかでぼくが一番の下っ端で時間的に余裕があっただけということです。当時のぼくは、博士課程にあがったばかりの若造(いまもあんまり変わってませんが…)で、ゼミ以外の同世代かちょっと先輩となる研究者のみなさんに囲まれて仕事をするのは、なんとも新鮮で多くのことをそこから学ぶことができたように思います。企画自体も刺激的なテーマで、人選も言うことなし。準備は大変だったけども、良い経験ができたことだし、なにより多くの研究者の方々と知り合いになれたのはありがたいことでした。

文献紹介からずいぶんと逸れちゃいましたが、まあいいか。たまには、ちょっと過去を振り返るのもいいものです。だって、歴史家なんだもの。
[PR]
Commented by hungry at 2011-01-16 08:29 x
Warmbrunnのものは論叢執筆で使わせてもらいました。アウクスブルクの制度のところしか読んでいませんが、諸側面をきちんと分けて分析していた上にデータ・統計も載せられていて、参考にしやすかった記憶がありますね。
Commented by schembart at 2011-01-16 20:07
hungryくん

制度史的な側面もちゃんと書かれてるから重宝する研究ですね。この博士論文以降、著者は研究の道には進まなかったみたいだけど、理論・実証の両面で今でも参照されてる重要な研究だと思います。
Commented by vnharuka at 2011-01-27 12:46 x
これは私の今後の研究にとても役立ちそうです。紹介、ありがとうございました。
Commented by schembart at 2011-01-27 14:07
vnharukaさん、
コメントありがとうございます。Warmbrunnの著作は、それほど新しいものではありませんが、なかなか示唆的な研究だと思います。ラーヴェンスブルクも取り上げられますし!!『歴史学研究』の大会特集号も、面白い論考がそろってるので、お勧めです!!
by schembart | 2011-01-12 01:38 | 文献紹介 | Comments(4)