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2017年4月から福岡大学人文学部歴史学科で西洋史を担当してます。


by schembart

ニュルンベルクの家系文書にまつわるお話

マクシミリアン博物館主催の特別展「市民の力と書物の華麗(Bürgermacht & Bücherpracht)」の一環として毎週火曜日に開催される公開講演会に行ってきました。特別展は、アウクスブルクの「名誉・家系文書(Ehren- und Familienbücher)」が中心になりますが、今日の講演会は、ニュルンベルク都市門閥の「家門の書(Geschlechterbücher)」についてのお話。

PD Dr. Peter Fleischmann, Staatsarchiv München
Bürgerliches Selbstbewusstsein - Stadtadeliges Selbstverständnis
Geschlechterbücher des Nürnberger Patriziats
市民の自己認識-都市貴族の自己理解:ニュルンベルク都市門閥の家門の書

ミュンヘン州立文書館の館長を勤めるペーター・フライシュマン博士は、私講師としてアウクスブルク大学のバイエルン・シュヴァーベン地域史学科でもゼミナールを主催しております。残念ながら、ぼく自身はそのゼミナールに出席した経験はありません。これまでの業績は、こちら

じつは、修士課程の学生の時分に、ニュルンベルクの都市年代記についてゼミで報告した経験があったので、今日のお話もずいぶんと理解できました。「家門の書」は、都市における身分的序列のなかで自身の家系の「名誉」を確かなものにすることを目的とし、15世紀後半から16世紀にかけて、有力な帝国都市において多く作成されました。挿絵の豪華さと紋章の多さ、そして頁数の多さこそが、自身の家門の由緒正しさを証明するとばかりに、次第にその「書」は豪華な代物になっていきます。見ているだけで、頭がくらくらしてきます。ニュルンベルクとアウクスブルクこそは、なんとも豪奢なこの「家門の書」を多く生み出した二大都市だったのです。その豪奢絢爛については、特別展のサイトからも容易にうかがい知ることができると思います。例えば、こちら

ちなみに、フライシュマン先生のニュルンベルク都市門閥に関する教授資格取得論文(Habilitation)は、都市指導層に関する多くの研究のなかでも、質量ともに群を抜いており、集大成的で記念碑的な仕事となっております。2008年に3巻本で刊行されました。いつか、こちらでもご紹介したいと思います。

Peter Fleischmann, Rat und Patriziat in Nürnberg. Die Herrschaft der Ratsgeschlechter vom 13. bis zum 18. Jahrhundert (Nürnberger Forschungen 31/1-3), Nürnberg 2008.
『ニュルンベルクの市参事会と都市門閥:13世紀から18世紀にかけての都市門閥による統治』

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フライシュマン先生は、ぼくが日本で大変お世話になった佐久間弘展先生の研究仲間で、博士論文も同じ時期に同じ先生のもとで執筆されていたようです。留学前に、佐久間先生からもフライシュマン先生のお話は伺ったことがありました。ぼくがはじめてフライシュマン先生にお会いしたのは、ちょうど一年前のこと。奨学金の延長申請の推薦書の執筆をお願いしたときでした。ぼくの準備が万端でなく、提出期限ぎりぎりでお願いすることになってしまったのですが、快く引き受けてくださいました。

書いてもらった推薦書を受け取りにアウクスブルク州立文書館(当時、フライシュマン先生はそこの館長だったのです)へ行くことに。しっかりとお礼の気持ちを伝えないといけなかったのですが、先生とお会いするのは、その時のぼくには、ずいぶんと気の重くなる仕事でもありました。ちょうどその前年に、佐久間先生が若くして亡くなられており、その事実を伝えなくてはならなかったからです。佐久間先生は、ドイツに研究滞在されるときは、フライシュマン先生のもとに宿をとることも多かったようです。

フライシュマン先生とはそれ以後もメールでやりとりをさせてもらったりしていますが、実際にお会いしたのは今日が二回目となりました。

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マクシミリアン博物館での公開講演会はまだまだ続きます。来週は、アウクスブルクの年代記作家クレメンス・イェーガーについてのお話です。これまた面白そう。講演者は、イェーガーについての博士論文があるグレゴール・ローマン博士(Dr. Gregor Rohmann)。期待が膨らみます。その博士論文も、いつかこちらでご紹介できたらなと思います。来週の予習にちょっと目を通しておこう。

Gregor Rohmann, „Eines Erbaren Raths gehorsamer amptman”. Clemens Jäger und die Geschichtsschreibung des 16. Jahrhunderts, Augsburg 2001 (Abhandlungen zur Geschichte des Bayerischen Schwaben. Veröffentlichungen der Schwäbischen Forschungsgemeinschaft bei der Kommission für Bayerische Landesgeschichte, Reihe 1, Bd. 28).
『”名誉ある市参事会に忠実なる役人”:クレメンス・イェーガーと16世紀の歴史叙述』
by schembart | 2011-05-04 04:24 | 講義・講演会・研究会