『森林書記の年間会計簿』
2011年 05月 27日
ぼくはと言えば、文書館に通って史料調査に精を出す毎日です。いま読んでいるのは、以前にもここでちょっとだけ紹介しました『森林書記の年間会計簿(Jahresrechnung des Waldschreibers)』という史料です。そのなかでも今は、1563年の会計簿を集中的に読み進めております。
ティロルに居を構え、森林での木材伐採、その搬出、レヒ川での木材流送を指揮したアウクスブルクの森林書記が作成した『年間会計簿』には、年間の収支が事細かに記録されています。この会計簿には、ティロルの村々から集まった数多くの日雇い人たちが登場します。その総人数、400名近く。史料を読み進めると、次第にティロルの山奥で働く彼らの姿が分かるようになってきます。人間が出てくると、史料を読むのが、また一段と面白くなってきます。
思い出すのは、博士論文のテーマを「都市の森林政策と木材供給」と定め、まずは関連する研究の動向を整理し、それをはじめてゼミで報告したときのこと。報告を聞いてある先生がポロリとおっしゃった言葉です。ずいぶんと先行研究を追ったので、先生もその点を高く評価してくれました。「ただ、まだ君の研究には人間が出てこないね。」
それ以来、この言葉はずっとぼくの心の片隅に引っ掛かり続けています。
『年間会計簿』を読み進めるうちに、ようやく自分の研究にも人間が登場してきたな、と手ごたえをもって実感できるようになりました。いまはまだ、その後ろ姿を必死で追いかけているだけですが、いつの日か、きちんとした形で世の中に公表できるように頑張りたいと思います。
暖かい日々が続いてますが、雨が降るとぐんと冷え込むこともあります。日本はそろそろ梅雨の季節でしょうか。出掛ける際は、傘を忘れずに。みなさま、どうぞご自愛ください。お元気で。