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2017年4月から福岡大学人文学部歴史学科で西洋史を担当してます。


by schembart

サイト紹介『ニュルンベルク12人兄弟館の書』

12人兄弟館(Zwölfbrüderhausstiftung)というのは、もう働くことのできない老人を受け入れて、その世話をするという、今でいう養老院のような機能をもった福祉施設です。

フランドルの男子ベギン館(Begardenhäuser)の影響を受け、14世紀末にニュルンベルクでも12人兄弟館が設立されました。入居を許されるのは、年老いて働くことができず、そのために生計を立てていくことができないニュルンベルクの手工業者に限られましたが、12人兄弟館はそこで老人たちのお世話をし、その最期を看取ったのです。12人兄弟館は都市参事会の保護下に置かれており、都市の福祉政策の一翼としても機能していました。

ニュルンベルクには、メンデル12人兄弟館とランダウアー12人兄弟館という二つがありました。

メンデル12人兄弟館(Mendelsche Zwölfbrüderhausstiftung)
ニュルンベルクの都市門閥コンラート・メンデル(Konrad Mendel)が1388年に創設。メンデル家はカルトゥジオ教会(Kartäuserkirche)の創設にも関わっており、多くの奇進行為で有名です。ちなみに、このようなニュルンベルク都市門閥による奇進については、原田晶子「寄進の変容と継承にみる後期中世ドイツの市民と教会―帝国都市ニュルンベルクの両教区教会を例にして」(『年報地域文化研究』5 (2001), 230-251頁)が参考になります。

ランダウアー12人兄弟館(Landauersche Zwölfbrüderhausstiftung)
鉱山経営で富を蓄えたニュルンベルクの大商人マテウス・ランダウアー(Matthäus Landauer)が、メンデル家12人兄弟館をお手本として、1501年に創設。

『12人兄弟館の書(Zwölfbrüderbücher)』は、この兄弟館に入居した手工業者たちの名前、職業、その姿、そして死亡の記録を描いた文書です。この記録は、中世後期から帝国都市としての資格を剥奪される1806年まで、途絶えることなく残されています。手工業者の仕事の様子が詳細に描かれており、歴史研究にとって非常に重要な史料なのです。とても有名ですので、どこかでちらっと目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

ニュルンベルク市立図書館(Stadtbibliothek Nürnberg)に所蔵されているその『12人兄弟館の書』が、デジタル化されて公開されています。

"Die Hausbücher der Nürnberger Zwölfbrüderstiftungen: Digitale Erschließung und Edition von Handwerkerdarstellungen des 15.-19. Jahrhunderts"
「ニュルンベルクの12人兄弟館の書:15~19世紀の手工業者描写のデジタル化とその公刊」

手工業者たちの働く姿を眺めているだけでも楽しめます。史料に出てくる手書きの文字もトランスクリプトされているので、手書き文書の解読に慣れたい方にも有益です。『メンデル文書』には、手工業者を描いた絵が765点、『ランダウアー文書』には406点が収録されています。それにしても、本当にいろいろな種類の職業があったものですね。時間を見つけてじっくりと閲覧してみようと思います。

ちなみに、ニュルンベルクの12人兄弟館については、阿部謹也『中世の窓から』(朝日選書、1993年)に詳細な記述があったように思います。ぼくは高校生のころにこの本を読んで「ああ歴史はなんて面白いんだ」と熱くなったのですが、きっと専門家以外の方が読んでも楽しめる内容だと思います。お薦めの一冊です。
by schembart | 2010-03-20 20:03 | サイト紹介