中近世ドイツ都市史を研究する渡邉さんの日々 2009年夏からドイツに留学中(2013年9月に帰国しました)


by schembart

文献紹介『共通の利益のために』

Jörg Rogge, Für den gemeinen Nutzen. Politisches Handeln und Politikverständnis von Rat und Bürgerschaft in Augsburg im Spätmittelalter, Tübingen 1996.
イェルク・ロッゲ『共通の利益のために:中世後期アウクスブルクにおける市参事会と市民の政治的行為と政治理解』

現マインツ大学中世史講座のイェルク・ロッゲ教授が1993年にビーレフェルト大学に提出した博士論文です。ロッゲ教授の研究業績等は、こちら。本書は、中世後期アウクスブルクの都市史に関して、キースリング先生の博士論文と並んで、よく参照される研究となっております。以下が目次。

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Dank(謝辞)
Einleitung(はじめに)

I Grundstruktur der Zunftverfassung
ツンフト市制の基本構造

1. Die Zünfte und der Große Rat
 ツンフトと拡大参事会
2. Der Kleine Rat, der Alte Rat, die Dreizehner
 小参事会、古参事会、13人委員
3. Wahlen
 選挙

II Augsburg um 1460
1460年頃のアウクスブルク

1. Augsburg als Reichsstadt
 帝国都市としてのアウクスブルク
2. Außenpolitische Situation und Wirtschaft
 外政情勢と経済
3. Sozialstruktur und Tendenzen der gesellschaftlichen Entwicklung
 社会構造と社会発展の趨勢

III Die Innenpolitik 1460 bis 1479: Krise und Reformversuche
1460年から1479年までの市政:危機と改革の試み

1. Die Krise von 1466
 1466年の危機
 1.1. Die Ungeldunruhen
  消費税騒擾
 1.2. Die Verfassungsreform
  市制改革
 1.3. Fazit und Bewertung
  まとめと評価
2. Der Bürgermeister Ulrich Schwarz
 市長ウルリヒ・シュヴァルツ
 2.1. Der politische Aufstieg von Ulrich Schwarz
  ウルリヒ・シュヴァルツの政治的昇進
 2.2. Die Verfassungsänderung von 1476
  1476年の市制変革
 2.3. Der Prozeß gegen Hans und Leonhard Vittel
  ハンスおよびレンハルト・フィッテル兄弟に対する裁判
 2.4. Die Verhaftung und Verurteilung von Ulrich Schwarz 1478
  1478年のウルリヒ・シュヴァルツの逮捕と有罪判決
 2.5. Das Politikverständnis von Ulrich Schwarz
  ウルリヒ・シュヴァルツの政治理解
 2.6. Fazit und Bewertung
  まとめと評価

IV Augsburg um 1480: auf dem Weg zum Wirtschaftszentrum
1480年頃のアウクスブルク:経済中心地への途上で

1. Die außenpolitische Situation
 外政的状況
2. Die wirtschaftliche Entwicklung
 経済上の発展
3. Sozialstruktur und Tendenzen der gesellschaftlichen Entwicklung
 社会構造と社会発展の趨勢

V Die Kosten des : die Folgen der wirtschaftlichen und sozialen Entwicklung für die Handwerkerzünfte
「黄金の時代」の費用:手工業ツンフトに対する経済・社会発展の帰結

1. Das Beispiel der Weber: Der Streit um das lange Garn
 職布工の事例:長糸をめぐる争い
2. Das Beispiel der Schuster: Der Konflikt um die Renovierung des Zunfthauses
 靴屋の事例:ツンフトハウス修理をめぐる紛争
3. Weitere innerzünftische Auseinandersetzungen (Kramer, Schuster, Metzger, Schäffler, Hucker)
 ツンフト内におけるその他の対決(雑貨商、靴屋、肉屋、桶屋、荷運び人)
4. Fazit und Bewertung
 まとめと評価

VI Die Ratspolitik 1480 bis 1525: Sicherung der innenpolitischen Stabilität
1480年から1525年までの参事会政策:市政の安定化

1. Reorganisation und Ausbau der Exekutive
 執行機関の再編成と拡充
 1.1. Die städtischen Amtleute
  都市の役人
 1.2. Die Gassenhauptleute
  街路長
 1.3. Die Scharwächter
  見回り人
 1.4. Das Stadtgericht
  都市裁判所
2. Stärkung der politischen Unabhängigkeit des Kleinen Rates
 小参事会の政治的独立性の強化
 2.1. Der Rat und die Zünfte
  参事会とツンフト
 2.2. Der Rat und die Herrentrinkstubengesellschaft
  参事会と門閥酒房団体
  2.2.1. Die Entstehung und Organisation der Herrentrinkstubengesellschaft
   門閥酒房団体の成立と組織
  2.2.2. Die Auseinandersetzung zwischen dem Rat und der Herrentrinkstubengesellschaft um die Zulassung von neuen Stubenmitgliedern 1514 bis 1517
   1514年から1517年までの新酒房会員の認可をめぐる参事会と門閥酒房団体との対立
  2.2.3. Fazit und Bewertung
   まとめと評価
 2.3. Städtische Sozialpolitik
  都市の社会政策
  2.3.1. Armut als Problem der Politik
   政治問題としての貧困
  2.3.2. Lösungsversuche: die Almosen- und Bettelgesetzgebung
   解決の試み:喜捨・乞食立法
  2.3.3. Fazit und Bewertung
   まとめと評価
3. Funktion und Bedeutung des Großen Rates
 拡大参事会の機能と意義
4. Reaktionen auf die Ratspolitik aus der Bürgerschaft: die Forderung von "brüderlicher Einigkeit" 1524
 参事会政策に対する市民のリアクション:1524年の「兄弟のような一致」の要求
 4.1. Die Ereignisse vom 6. bis 12. August 1524
  1524年8月6日から12日までの事件
 4.2. Sozialprofil und politische Motive der protestierenden Bürger
  抵抗する市民の社会的プロフィールと政治上の動機
 4.3. Elemente des Politikverständnisses der protestierenden Bürger
  抵抗する市民の政治理解の諸要素

Zusammenfassung: Thesen für die Gesamtinterpretation des Verhältnisses von Rat und Bürgerschaft 1460 bis 1525
まとめ:1460年から1525年までの参事会と市民の関係性に関する全体的な解釈


Anhang I 
Zum Augsburger Steuersystem und der Vermögensberechnung
付録1:アウクスブルクの租税制度と資産額の見積もりについて

Anhang II Verfassungsschemata:
付録2:市制の見取り図
1. Die Augsburger Zunftverfassung 1368 bis 1476
2. Die Augsburger Zunftverfassung 1476 bis 1478/79
3. Die Augsburger Zunftverfassung nach 1479

Anhang III
1. Ankürzungen
2. Quellenverzeichnis
2.1. Archivalien
2.2. Gedruckte Quellen
3. Literaturverzeichnis
付録3:略記、史料(手書き/印刷)・文献目録

Register
索引
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本書は全6章(+まとめと充実した付録)から成ります。1章はツンフト市制の基本構造に関する解説。2章は1460年頃のアウクスブルクに関する概説。3章は、1460年から1479年にかけて市内で巻き起こったいくつかの事件(消費税をめぐる騒擾、ツンフト市長シュヴァルツの「市制変革」)を取り上げます。ツンフト市長ウルリヒ・シュヴァルツをめぐる「政治事件」(シュヴァルツの死刑に終わります)については、次の論文が参考になります。

田中俊之「ドイツ中世都市における『公共の福利』理念」『史林』76-6 (1993), とくに、65-69頁

4章は、1480年から1525年にかけての都市アウクスブルクをめぐる予備的考察。5章は、当該時期におけるツンフト内のいくつかの紛争・対立を取り上げます。でも、何と言っても本書の肝は、「1480年から1525年までの参事会政策」と題された第6章にあります。

まず著者は、1480年以降の参事会による執行組織の再編成と拡充の過程を、具体的には都市役人、街路長、見回り人、都市裁判所を取り上げながら描き出します。そのうえで、参事会がその他の社会集団に対してその執行権を確立していく様子を、ひとつはツンフトを事例に、もうひとつは都市門閥が集まる酒房団体を事例に分析していきます。この門閥酒房団体と参事会との(酒房団体の新会員の認可権をめぐる)対立が、本書のハイライトだと思います。とにかく興味深いやりとりが繰り広げられているのです(191-210頁)。この対立のなかで、参事会が論拠として多用するのが、本書のタイトルでもある「共通の利益」なのですが、うーむ、この面白さは、ちょっとうまく伝えられない・・・。どうしよう。まぁ、いっか。いつかこの部分だけでも、どこかに翻訳して紹介したいと思うくらいに面白いのですが、ここはいくつか日本語文献を紹介してお茶を濁そうと思います。

アウクスブルクおよび南ドイツの酒房団体については、以下の文献が参考になります。

相澤隆「ドイツ中世都市における酒房の社会的意義について―南ドイツの仲間団体との関連を中心にして」『歴史学研究』587 (1988), 16-25頁

栂香央里「中近世都市アウクスブルクのメーラー:都市貴族と商人のあいだ」『日本女子大学大学院文学研究科紀要』14 (2007), 85-99頁

斎藤敬之「近世都市ポリツァイ条令に見られる「取締の選別」―アウクスブルクの酒房団体と参事会刑罰官を中心に」『西洋史論叢』32 (2010), 71-85頁

そもそも今回、齋藤敬之くんの論文を読んで、ロッゲの著作を読みなおそうと思ったのです(齋藤くん、いくつか論文で気になる点があるので、時間ができたらまた個人的にメールします)。

それから、近世都市ケルンを事例に参事会と市民とのさまざまなレベルでの政治的コミュニケイションを分析されている高津秀之さんの研究も、本書でロッゲ教授が展開する議論と問題関心をともにしていて参考になるかと思います。ここではひとつだけ文献を挙げておきます。

高津秀之「近世都市ケルンにおける権力構造の変容と1608-1610年の都市騒擾: 「市制概要」とガッフェル条令を史料として」『史観』156 (2007), 39-55頁

文献紹介と言いつつ、また話題がずいぶんとずれてしまいました(悪い癖です)。お詫びとして(!?)、当該テーマに関する最新の研究をひとつ挙げておきます。アウクスブルクも取り上げられているので読んでみないといけません。また機会があったらこのブログでもご紹介いたします。

Maximilian Gloor, Politisches Handeln im spätmittelalterlichen Augsburg, Basel und Straßburg, Heidelberg 2010.
マクシミリアン・グロール『中世後期アウクスブルク、バーゼル、シュトラースブルクにおける政治的行為』
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by schembart | 2011-01-22 00:40 | 文献紹介