中近世ドイツ都市史を研究する渡邉さんの日々 2009年夏からドイツに留学中(2013年9月に帰国しました)


by schembart

『A3』

森達也『A3』集英社インターナショナル、2010年

昨年末に刊行された森さんの『A3』を読みました。2005年から2007年にかけて雑誌『月刊プレイボーイ』で連載された記事をもとに、大幅な加筆や削除を加えて書籍化された本書には、麻原裁判の経過を追いつつ、麻原彰晃の生い立ちにまで踏み込みながら、一連のオウム事件の背景を客観的に説明できる(自身でも納得のできる)言葉を一心不乱に探し求める森さん自身の姿が描かれています。本書は、森さんの『A』『A2』という一連の映像作品、書籍の続編でもあります。

ちなみに、ぼくが『A』を見たのは、2007年5月のこと。あれは、かなりの衝撃でした。当時の日記を見ると、そこにはうまく事情を飲み込めずにあたふたするぼく自身の姿がありました。稚拙な文章で恥ずかしいけど、以下に引用します。

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森達也監督ドキュメンタリー『A』を見た。

オウムによる地下鉄サリン事件が起こったのが1995年。僕は13歳。中学生だった。テレビでは毎日、オウムや麻原の名前が出てた。僕はよく分からないなりにも、恐ろしい団体がとんでもない事件を起こしたんだな、というふうに思ってた。嘘みたいな事件だと思ってた。

『A』は、森さんがカメラを片手にオウムの施設内に入り、広報担当荒木浩(あらきひろし)を被写体に、オウムの内部を記録したドキュメンタリー。嘘みたいな設定だけど、本当。

見終わった感想は、正直、よくわかんない…。どう感じたらいいのだろう。10年前にテレビで見てた光景とは、全く違う世界が存在する。しかも、報道で流されてたよりも、もっと格段にリアル。僕は、この記録を見て、何を思えばいいのかな…。よくわかんない。頭のなかで、ぶーんといううねりが聞える。あの事件は、いったい何だったんだろう。

森さんの記録からは、僕らが生きてる世間の姿が、いつもとは違う角度から見えてくる。ビックリしたのは、警察の不当逮捕の件。真昼間の大きな通りで。あれが本当に行われたとは、いまでもちょっと信じられない。衝撃なシーンだった。。

いろいろとわかんなくなった。宗教、犯罪、裁き、世間、警察、人権、殺人集団、メディア、権力、組織と個人…。

それから、オウムは宗教なんだ、ということを今更ながらだけど、僕は強く感じた。

頭の中が、上手くまとまらない。また見るだろうな、こりゃ。森さんの本を購入。

森達也『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』角川文庫。

(2007年05月10日)
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あれ以来、森さんのそれまでの作品を読みなおし、新刊が出れば買うようになりました。ごつごつとした手触りのある森さん独特の文章に、どことなく心ひかれるところがあったのです。『死刑』(朝日新聞社)や『クォン・デ―もうひとりのラストエンペラー』(角川文庫)など、それぞれに心揺さぶられる作品も多いなか、やはりオウム関連の『A』シリーズは、それ以外の著作とは一線を画した(森さんにとっても、ぼくらのような一読者にとっても)特別な作品であるように思います。

今回だって『A』を見た時と同じくらいに戸惑っている自分がいるわけです。

本書の内容については、ぼく自身が粗筋を述べるのことにそれほどたいした意味もないように思うので、気になる方はぜひ手にとって見てください。ちょっと長すぎるし、重複する内容も多いし、読み進めてなにか明快な結論が導き出されるわけでもないけど、その何とも言えない、喉に骨が詰まったような、あの感じ(何と言えばいいのだろう?)こそが、本書の持つ特徴だと思うから。

本書に出てきた藤原新也『黄泉(よみ)の犬』(文春文庫)がとても気になったので、ドイツに戻る前に買ってみようと思います。
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by schembart | 2011-04-05 15:24 | 読書