中近世ドイツ都市史を研究する渡邉さんの日々 2009年夏からドイツに留学中(2013年9月に帰国しました)


by schembart

文献紹介『近代の気候史』

Franz Mauelshagen, Klimageschichte der Neuzeit 1500-1900, Darmstadt 2010.
フランツ・マウエルスハーゲン『近代の気候史』

気候の歴史に関する最新の入門書。フランス(E.ル・ロワ・ラデュリ)やスイス(Ch.プフィスター)に比べると、ずいぶんと遅れた観のあるドイツの気候史研究ですが、近年はヴォルフガング・ベーリンガー『気候の文化史』、や同編『“小氷期”の文化的帰結』など、とくに文化史的な視点から活発に議論がなされております。本書は、以上のような流れをしっかりと押さえたうえで、気候史研究(Klimageschichte)および歴史的気候学(Historische Klimatologie)というのがいかなる学問で、何を明らかにすることを目指しているか、それを初学者に向けて分かりやすく解説してくれます。

以下が目次。

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Einleitung
はじめに

I. Klimatologische Grundlagen
気候学の基礎

1. Durchschnittliches Wetter und Klimavariabilität
標準天候と気候の変化
2. Klimasystem
気候システム
3. Antriebsfaktoren für Klimawandel
気候変動の誘発要因

II. Historische Klimatologie heute
今日の歴史的気候学

1. Was ist Historische Klimatologie?
歴史的気候学とは何か?
2. Zur Geschichte der Historischen Klimatologie
歴史的気候学の歴史
3. Ein schwieriges Verhältnis: Historische Klimatologie und Geschichtswissenschaft
歴史的気候学と歴史学との難しい関係性

III. Klimarekonstruktion: Quellen und Methoden der "Wetternachhersage"
気候の再構成:「天気後報」の史料と方法

1. Das Spektrum der Daten
データの多様性
2. Das Spektrum der Zeugnisse
証言の多様性
3. Instrumentelle Messungen
器具による測定
4. Methoden: Von den Proxydaten zur Rekonstruktion
方法:間接気候指針から再構成へ
5. Ausblick
展望

IV. Das rekonstruierte Klima 1500-1900
再構成された気候1500~1900年

1. Gletscher auf dem Vormarsch
前に進む氷河
2. Das europäische Klima von 1500 bis 1900 im Überblick
1500年から1900年までのヨーロッパの気候概観
3. Antriebsfaktoren
誘発要因

V. Zur Sozioökonomie der Kleinen Eiszeit
小氷期の社会経済

1. Agrarwirtschaft und biophysikalische "Impacts"
農業と生物物理学上の「インパクト」
2. Das Spur des Klimas in der Preisgeschichte
価格史における気候の足跡
3. Hungersnöte
飢饉

VI. Natürliche Ressourcen und sozialer Konflikt
自然資源と社会紛争

1. Bauernrevolten
農民反乱
2. Globale Krise im 17. Jahrhundert
17世紀のグローバル危機
3. Wetterzauber und Hexenverfolgung
天候魔術と魔女迫害

VII. Klimawandel und "Naturkatastrophen"
気候変動と「自然災害」

1. Katastrophen als "kurzfristige Schocks"
「短期衝撃」としての災害
2. Ansätze und Bedeutung der historischen Katastrophenforschung
歴史的災害研究のアプローチと意義
3. Historische Hydrologie
歴史的水文学
4. Stadtbrände
都市火災

VIII. Ausblick
展望


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前半部は、歴史的気候学で用いられる専門用語の説明、それから研究史を大きく整理したあとに、1500年から1900年にかけての気候史上のデータをたくさん提示してくれます。後半部では、気候変動の社会経済に対する影響にとどまらず、それが社会的不安、農民反乱、魔女迫害などに及ぼした影響についても取り上げています。また、災害史研究(こちらこちらも参照)との橋渡しの可能性についても触れられます。しかし、本書でも取り上げられいますが、「(一般)歴史学と気候史研究との困難な関係」についてもまた、目を向けざる負えない状況は続いてるように思います。環境史研究もまた、似たような問題を抱えていると言えるでしょう。ベーリンガー「危機研究の十戒」が、ひとつの指針を示してくれているように思いますが、まだまだぼく自身も、じっくりと付き合っていかないといけない課題だと思います。

ともあれ、こうして気候史の入門書が刊行されたのは、有り難い限りです。近々、「ドイツ史百科(Enzyklopädie deutscher Geschichte)」で『近世の環境史(Umweltgeschichte der Frühen Neuzeit)』もまた刊行されるとのこと。こちらも楽しみですね。
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by schembart | 2011-09-03 02:49 | 文献紹介 | Comments(0)