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中近世ドイツ都市史を研究する渡邉さんの日々 2009年夏からドイツに留学中(2013年9月に帰国しました)


by schembart

文献紹介『アウクスブルクの歴史的な水利経済と水文術』

Martin Kluger, Historische Wasserwirtschaft und Wasserkunst in Augsburg. Kanallandschaft, Wassertürme, Brunnenkunst und Wasserkraft, hrsg. Stadt Augsburg, Augsburg 2012.
『アウクスブルクの歴史的な水利経済と水文術:運河が織りなす景観、給水塔、噴水技術、水力発電』

現在アウクスブルクでは、「歴史的な水利経済と水文術」のユネスコ世界遺産への登録を目指して、都市を挙げての活動がさまざまに行われております。世界遺産への登録リストへの参加表明(こちら)は、すでにバイエルン州レベルでの審査を経て、その推薦を受けることが決定されました。次は、ドイツ連邦レベルでの審査が待ち受けてるようです。さて、どうなるものか。動向に目が離せません。

本書は、世界遺産への登録推進活動の一環として刊行されました。試し読みは、こちらから。世界遺産への登録がどうなるかは別として、アウクスブルクの水利経済は、歴史学的に見ても、非常に興味深い。帝国都市による飲み水の確保・供給政策は、1412年(今から600年前!)まで史料的に遡ることができるようです。本書は、都市内の水路システム、水道管による市内への飲み水供給、給水塔の設置、芸術的な噴水施設、水文学の確立、そして1902年の水力発電所の稼働に至るまで、豊富なカラー写真、挿絵付きで、丁寧に説明してくれます。以下が目次。

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Das Einzugsgebiet der Augsburger Wasserwirtschaft
アウクスブルク水利経済の河川流域


Flüsse und Kanäle. Geologie, Topografie, Hydrologie, Naturraum. Die Rahmenbedingungen der Augsburger Wasserwirtschaft an Lech und Wertach
河川と運河。地質学、地誌、水文学、自然空間。レヒ川・ヴェルタッハ川沿いのアウクスブルク水利経済の前提条件

Die Denkmäler der Augsburger Wasserwirtschaft
アウクスブルク水利経済の文化遺産


Kanäle waren die Kraftquellen der Reichsstadt. Im Stadtrecht von 1276 wurden erstmals Augsburger Stadtbäche namentlich erwähnt...
帝国都市の力の源泉たる運河・水路システム。1276年都市法に初めて言及されるアウクスブルクの都市水路

Vom Hochablass werden die "Leche" abgeleitet. Von hölzernen Ablasswehren bis zur Stahlbetonkonstruktion des Industriezeitalters
ホッホアプラスから流れ出る「いくつかの小さなレヒ川」。木製排水堰から産業時代の鉄筋コンクリート設計まで

Wasserkunst zwischen Mittelalter und Neuzeit. Seit 1412 versorgten Wassertürme die Bevölkerung der Reichsstadt mit Fließwasser...
中近世の水利技術。1412年以来、帝国都市の住民に水を供給する給水塔

Wasserversorgung durch Monumentalbrunnen. Mit drei Fließwasserbrunnen gestaltete die Reichsstadt den zentralen Straßenraum...
豪華噴水による水供給。帝国都市の中心街路空間を形作る三つの水道噴水

Wasserwissen in Modellen, Skizzen und Schrifften. Hydrotechnische Modellbauten und Dokumente der Augsburger Wassertechnologie
模型、見取り図、刊行物に水利知識。アウクスブルク水利技術の水文学的模型作りとその記録

Augsburgs Wasser förderte die Industrialisierung. Die Turbinen der Fabriken setzten die Antriebskräfte von Lech und Wertach um...
産業化を支えるアウクスブルクの水。レヒ川・ヴェルタッハ川の水力をエネルギーに変える工場のタービン

Das Augsburger Wasserwerk am Hochablass. Im Jahr 1879 entstand eine europaweit beachtete technologische Innovation...
ホッホアプラスのアウクスブルク給水施設。1879年、ヨーロッパ規模で注目される技術上の革新

Denkmäler der Elektrifizierung durch Wasserkraft. Stromgewinnung durch frühe Wasserkraftwerke und der Bau des Lechkanals...
水力発電による電化の文化遺産。初期水力発電所による電気産出とレヒ運河・水路の建設

Der universelle Wert der Augsburger Wasserwirtschaft
アウクスブルク水利経済の普遍的価値


Die Augsburger Denkmäler und ihre Schutzzonen. Augsburgs Intressenbekundung zur Aufnahme in die Liste des UNESCO-Welterbes
アウクスブルクの文化遺産とその保護区域。ユネスコ世界遺産の登録リスト採用へのアウクスブルクの参加表明

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中近世の都市にとって、飲み水の確保と市内への供給は、ぼくが博士論文で取り上げる木材の供給と並んで、無視することのできない重要な課題だったのです。数万、数十万、数百万の都市住民を抱える大都市なら、その重要性はなおさら大きくなります。安全な飲み水の持続的な供給が都市住民の生活・生存を支える重大課題であることは、現在でも変わりありませんし、今後は、より切迫した課題となっていくことが予想されます。いまの研究が一段落ついたら、ぼくもこの分野についてさらに突っ込んだ勉強をしてみたいと思っています。

帝国都市アウクスブルクの高度な水文術(Wasserkunst)は、16世紀の後半から、刊行物や技術者の交流を通じて、ヨーロッパの各地にも伝えられたようです。その意味でも、アウクスブルクの水利経済と水文術は、普遍的な価値を持っているというわけです。ユネスコの世界遺産に無事に登録されれば良いですね。良い結果を、このブログでも報告できればと思います。

ちなみに、本書とも関わるレヒ川の歴史、意義についてはこちら、レヒ川博物館については、こちらをご参照ください。写真は、市庁舎前広場のアウグストゥスの泉。
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by schembart | 2012-08-15 03:24 | 文献紹介